マンションという名のホテル
このごろよく耳にする「マンション」。いわゆるマンションかと思っていたら、どうもホテルの名前らしい。場所は、サヤンのプネスタナン通りにあると聞いて「あ、ひょっとしたらあの建物かな」と思いあたるふしがあった。
10年以上前になるが、ウブッドからサヤンに抜ける道をよくバイクで走っていた頃、鉄の門扉のむこうに威嚇するように構えていた白い建造物が通るたびに気になった。
役所のような、会社のようなその見栄えはいずれにしたところで場違いな印象で、なんでこんなものが田舎の道沿いにあるんだろと奇妙にも感じていた。
住所を頼りにきょうの昼過ぎ、出かけてみた。
どうやら役所でも会社でもなく、ジャカルタの裕福な家族の住まいだったそうだ。それがフランス系の人物に買い取られ、ホテルに模様がえした。
何棟もある居宅をそのままゲストルームとして再利用し、その名も「マンション」というホテルに変身。ぜんぶで41室もあるらしい。ホテルとして41室は多くはないが、これが個人住宅の41室であったのを思えば....すごい! としかいいようはない。
入口をぬけるとガラクタ...じゃなくってアンティークの置物が並んでいる。
朝からなにも口にしていないので、足がむくのはレストラン。
おお〜っ!
各テーブルは、すべて「〜調」というか「〜様式」といった感じでコーディネートされている。それも単純に「ロココ調」とかの一本調子ではなく、ほかの要素がミックスされているのである。
「ここはインディー・インド」
ボーイくんが言う。
なんだ、それは !? たぶんぼくの聞き違いだろう。腹が減って集中力が落ちている。
「これはフランス・チャイニーズ」
ふむ。(高そ...)
「メニュー見せてね」
ボーイくんの持ってきてくれたメニューの右列にある数字をザッーとチェック。
「あっちのカフェのほうが安いよね?」
ロビーを抜けたところにカフェテラスがあるのだ。
「はい」
「じゃ、あっちにしよう」
プール横にあるカフェテラス。午後のひかりが隅々にまで満ちていた。
ミニマリズムと呼ばれるシンプルな建築・インテリアスタイルが流行っているバリで、こんなふうに異種混合の、ある意味ではゴチャゴチャとした取り合わせのインテリアを楽しませてくれる空間はめずらしい。
なんだか懐かしささえ感じてしまうのは、べつにロココ調だのインド風に思い出があるわけではなく、すでにある調度品をうまく組み合わせてひとつのまとまった雰囲気をつくろうとする創意工夫の痕跡に対してなのだ。
こうしてああしてと試行錯誤をかさね、それなりになんとなくしっくりとした組み合わせをつくりだす。それは誰でもやっていることだし、だいたいが身の丈にあった空間に落ちつくはずだ。
ミゲル・コバルビアス(1904ー57)のポスターがカフェの壁にかかっていた。オリジナルだとしたら、これもすごい!
それにもうひとつ感心したのは椅子──ほとんどすべて布張りでその布の暖色系色彩は周囲から差しこむ強い陽射しをうけとめ和らげている。
一見豪華そうに見えて気づまりしそうだが、意外とアットホームに感じるのもそんなところからきているのかもしれない。
敷地内にある評判の歯科クリニック。次回はここをめざして来るような予感がする。