2010-12-01から1ヶ月間の記事一覧

帰ってゆく風景 ── 母、そして子 『100年前の女の子』を読む 最終回

「100年前の女の子」だった寺崎テイさんには、母と呼ぶひとはいなかった。 テイさんが記憶している、あの懐かしい高松村の風景のなかに母の姿はいちども見なかったのである。 1909(明治42)年8月10日、朝から雷がとどろき豪雨が見舞い、やがて猛暑となった…

帰ってゆく風景 ── 陽気なひとびと 『100年前の女の子』を読む 4

この本を手にする前に、たまたま『逝きし世の面影』(渡辺京二)を読んでいた。それで、しばらくの間ふたつの本を並べて交互に読むことになった。 『逝きし世の面影』は幕末から明治にかけて日本にやってきた外国人たちの見聞記を著者が丹念にひろいあつめ、…

帰ってゆく風景 ── 包容力 『100年前の女の子』を読む 3

先日の日曜日、近所の美容室で散髪した。 目をつぶって髪を切ってもらっていると、表通りを行き交う車やバイクのヒステリックでせわしない音に混じって竹笛の単調な響きが耳に入ってきた。 目を開けると鏡のなかに通りを挟んだ向こう側の歩道を、白いシャツ…