2013-01-01から1年間の記事一覧

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シエスタ 9時がぶつぶつ言っているので耳を傾けると、どうしても2時の隣に並びたいと駄々をこねている。急きょ開かれた時計会議は、1日だけ9時の願いを叶えてあげることにした。 というわけで、今日は2時のあとにとつぜん9時がきて真っ暗になりますか…

どうぶつ譚

満月 満月を見ようと庭にでてみると、雲がかかっているから一枚そろりと剥がしてみた。 それからまた一枚と、つぎつぎと剥がしているうちに、体じゅうが白い雲に覆われふわふわと空を漂いはじめた。「行きたいところはあるのか」 突然、雲のむこうから声がし…

蟲賦(むしのうた)

変身 朝、目が覚めたら背中に翅がはえていた。 すぐにカフカを思い出したが、翅があるので少し安心した。 翅を広げようとすると目の前に猫がやってきた。 猫の名前を呼ぶと、爪がいきなり翅をちぎった。 叫び声をあげた刹那、夢から覚めた。 それで、まだわ…

「これいただきね」と剽窃されてたから4月10日はコピー記念日

4月10日の昼過ぎ、ウブッドから自宅に帰る途中、マスの大通りに面したちいさな店が目に入った。 いつも通っている道で、どんな店がどこにあるかだいたい知っているつもりだが、その間口の狭いちっぽけな店には気がつかなかった。 店に置かれている商品をなに…

眠れないあなたと

満室 眠りの入口のドアを叩くと奥から咳払いが聞こえたので、再び闇の通路を手探りで歩いていた。 別のドアが手に触れ、戸板に耳をあてると微かに寝息がもれてくる。つぎのドアからは歯を軋(きし)る音が聞こえてきた。 今夜も眠りの入口はどれも塞がってい…

昼下がりの夢

葉書 引出しの中からサラサラと音が聞こえるのを奇妙に思いあけてみると、消息の絶えた友人からの古い葉書がでてきた。 手にとると、インクの青い文字は床に滑り落ち、跳びはねながら外にとびだしていった。 夜道を追いかけているうちにとうとう海岸にでると…