昼下がりの夢

 

 

 葉書


 引出しの中からサラサラと音が聞こえるのを奇妙に思いあけてみると、消息の絶えた友人からの古い葉書がでてきた。
 手にとると、インクの青い文字は床に滑り落ち、跳びはねながら外にとびだしていった。
 
 夜道を追いかけているうちにとうとう海岸にでると、文字は息切れし喘いでいる。


 彼らのかたわらに腰をおろして空を見上げると、雲の間から月がのぞいていた。



 国籍


 国籍の墓場があるから見にいかないかと誘われ、日が陰りはじめた頃に宿舎を出た。


 砂丘の果てに建つ小屋には墓守がいて、国籍をひとつひとつ白い布に包んでは砂の上に並べていた。
 時折吹く強い風に煽られ、国籍たちは舞い上がっては海をめざした。


 波間で国籍たちが夕陽を浴びながら白い手をふっていた。


                        


 


 ナイフを使っていたら、うっかり人差し指を切り落としてしまった。


 人差し指は立ち上がると、おいでおいでをしてから走りだしたので追いかけた。
 指のくせに意外な速さで進むものだと驚きながら、そういえば指のことは何も知らずに一緒にいたのだったと気づいた。

 指は立ち止まると叢(くさむら)をさした。


 人差し指のない亡骸がそこに横たわっているのが見えた。

                     



 青い草


 庭に生えていた青い草を引きぬこうとしたら、根はするすると抜けた。
 地中深く張っているらしく、果てしなく抜けつづけた。

 そのうち根にモグラがからんできた。
 モグラのつぎには貝殻、土器や人骨、木簡に埴輪。


 手をとめふり返ると青い草は見上げるばかりの大木となり、その下で私は眠っていた。



 道連れ


 夜道を歩いていると声をかけられたので、ふりむくとオゴオゴがいた。
 何の用だと尋ねたら、道連れになれという。


「道連れになってどこへ行くんだ」


「お前の好きな所でいい」


 ならばこのまま歩いていると言ったので、オゴオゴはいまも後ろをついてくる。





 余韻


 扉をとんとん叩く音がするので開けてみると、乳色の玉がふわりふわりと浮いていた。

 ああ、これはさっきまで遠くから聞こえていたガムランの音の余韻だなと思い部屋に通した。


 余韻は、ランプの下をしばらく漂っていたが、そのうちゆっくり縮んでいき、最後に「おやすみ」と鳴ってはじけて消えた。