水面に映る朝

プトゥ

わたしの部屋にむかって歩いていく 3月以来、父方の実家とマスの住まいを行ったり来たりしているうちに4歳になったわがプトゥ。お子さんを育てたかたは皆さん経験的にご存じなのだろうけど、こちらは初めて身近に見るものだから、3歳から4歳になったとた…

Art Bali / Beyond Myths

会期終了まぎわの7日に、病みあがり途上で脱力したままのからだを背負うようにしてヌサドゥアまで出かけた。 多少の無理をしてでも来たかいがあったのは、なんといってもこれだけのボリュームとレベルの高いコンテンポラリーアートをバリで一堂に見るのは初…

Deep Connection

1 われら疑似家族として共に暮らしはじめてまる2年が過ぎた。右に座っているのが「息子」のプトゥで左が「孫」のプトゥ。仕事を終えたあとふたりで庭で遊んでいたが、しばし休息、そこへ南の方角からングラ・ライ空港を飛び立った飛行機がゆっくりと空をす…

ソレが帰ってきた!

12月6日午後、思いもよらない事故でパギといっしょに遊んでいたソレが死んだ。 わずか14か月の生命の果てだった。 パギとともにわが家の庭に捨てられていた時からかぞえれば、ちょうど1年を過ぎたばかりだった。 ほんとうに仲のよいパギとソレだった。 去…

生きることについて ナーズム・ヒクメックの詩から

この1週間はなにかの符号がぴたりぴたりと合わさるように、ただ一点にむけて考えつづけていた。それは死についてであり、ひとしくいま死にむかってすすんでいるぼくらの生についてだった。 はじまりは、古くから付き合いのあるアメリカ人の友人Dが新たに契…

九月の海べりの午後の日差し 非観光的スポット案内

構図について考えていた。 目の前にひろがるビーチ、その手前に幅4、5メートル、全長50メートルほどもあるやけに細長いプールがビーチに平行して横たわっている。プールサイドにはカンバス地の日除けに護られたふたりがけのソファベンチが置いてある。泳ぎお…

あたりまえのことから世界と関わる(リー・ミンウェイ展の印象)

会場に入ると右手のL字型の白い壁面に色とりどりのボビンが間隔をあけ垂直に架けられている。大きな壁面を占領するカラフルな糸巻きのディスプレイだけでも、巨大なパレットのようなインスタレーションの印象をうけるのだが、そのひとつひとつの糸の先は、手…

NEXT

シエスタ 9時がぶつぶつ言っているので耳を傾けると、どうしても2時の隣に並びたいと駄々をこねている。急きょ開かれた時計会議は、1日だけ9時の願いを叶えてあげることにした。 というわけで、今日は2時のあとにとつぜん9時がきて真っ暗になりますか…

どうぶつ譚

満月 満月を見ようと庭にでてみると、雲がかかっているから一枚そろりと剥がしてみた。 それからまた一枚と、つぎつぎと剥がしているうちに、体じゅうが白い雲に覆われふわふわと空を漂いはじめた。「行きたいところはあるのか」 突然、雲のむこうから声がし…

蟲賦(むしのうた)

変身 朝、目が覚めたら背中に翅がはえていた。 すぐにカフカを思い出したが、翅があるので少し安心した。 翅を広げようとすると目の前に猫がやってきた。 猫の名前を呼ぶと、爪がいきなり翅をちぎった。 叫び声をあげた刹那、夢から覚めた。 それで、まだわ…

「これいただきね」と剽窃されてたから4月10日はコピー記念日

4月10日の昼過ぎ、ウブッドから自宅に帰る途中、マスの大通りに面したちいさな店が目に入った。 いつも通っている道で、どんな店がどこにあるかだいたい知っているつもりだが、その間口の狭いちっぽけな店には気がつかなかった。 店に置かれている商品をなに…

眠れないあなたと

満室 眠りの入口のドアを叩くと奥から咳払いが聞こえたので、再び闇の通路を手探りで歩いていた。 別のドアが手に触れ、戸板に耳をあてると微かに寝息がもれてくる。つぎのドアからは歯を軋(きし)る音が聞こえてきた。 今夜も眠りの入口はどれも塞がってい…

昼下がりの夢

葉書 引出しの中からサラサラと音が聞こえるのを奇妙に思いあけてみると、消息の絶えた友人からの古い葉書がでてきた。 手にとると、インクの青い文字は床に滑り落ち、跳びはねながら外にとびだしていった。 夜道を追いかけているうちにとうとう海岸にでると…

Nusa Lembongan 断想 非観光的スポット案内

いまの季節ならツーリストで賑わっていることもないだろうと思いつき、レンボンガン島を初めて訪ねてみた。 サヌール海岸から高速艇で30分、バドゥン海峡の激しい潮流をタテにヨコにと揺られてレンボンガン島の岸辺に到着した。埠頭もなにもない所で、船を降…

Tanah Lot 夕景 非観光的スポット案内

タナ・ロットに来たのは14年ぶりだ。 高校時代のクラスメートが、家族とともに初めてバリにやって来たときに案内して以来のことだ。 6年前、三度目のバリ来訪を前にして友人は急逝した。彼の遺骨をバリの海に散骨してから5年経った。 狭い浜辺は相変わらず観…

ボゴール熱帯植物園 2  非観光的スポット案内

むかし、歳時記かなにかを読んでいるとき「犬ふぐり」のことばを見つけて吹きだしてしまったことがある。 しかし、その17文字の句は、決して犬のきん◯まを詠んだものではないというのは、近くにいた友人が笑いこけているアホに教えさとしたおかげで、そのと…

ボゴール熱帯植物園 1 非観光的スポット案内

初めてボゴールを訪ねたのは '93年だったと思う。 その頃はまだ日本にいたから、この都市を訪ねたのは「熱帯植物園」を見学するというただひとつの目的しかなかった。今回の西ジャワの旅では、ボゴールに住む、親しくしている学生と落ち合い一緒にバティック…

House of Sampoerna 非観光的スポット案内

スラバヤ市内のはずれに「グダン・ガラム」と並ぶ大手煙草メーカー「サンプルナ」の博物館がある。創業者は Liem Seeng Tee という移民中国人で、丁字入りの煙草を自宅でつくり小商いを始めたのが1913年のことだというから、1世紀の歴史を歩んできたわけで…

マデ・アルタナの巣立ち 

この3月半ばにアメリカへ旅立った初代丁稚のマデから今朝メールが届いた。 Dear Bapak で始まる短い便りだが、念願だった客船クルーの仕事につくまでの長い道のりを思えば、とにもかくにも彼はいま、あたらしい人生のスタート地点に立ったのだという実感が…

こういうことをしてもいいのかどうか分からないけど

去年の5月以来3度目になる、スカイプをつかったテレビ生出演があった。 日本時間5時20分の本番よりも2時間以上前からスタンバイして、リハーサルや音声チェックなどの調整があったのだが、今回は話す内容が多く、しかも本番30分前に最終台本が決まると…

ジャコウネコの贈りもの

噂に聞いていた「コピ・ルワック/ Luwak Coffee」をタンパクシリンまで飲みにいった。 道沿いにはぽつりぽつりと、数は少ないがこのコーヒーを飲ませる店が間隔をおいて並んでいたから、すでに知る人ぞ知る観光スポットになっているのかもしれない。 農園と…

ジンバラン

海岸にあるシーフードバーベキューのレストランを久しぶりに訪れた。 10年以上も前には、親しいひとたちといっしょにウブッドでは味わえない新鮮な魚介類を食べるため、ときどきここへ来ていた。その頃は、レストランというよりは洒落た屋台と呼ぶにふさわし…

ワルン 非観光的スポット案内

むか〜し、政府関係の偉い役人さんに「おまえはここで1日どのくらいの金をつかっているんか」と訊かれたことがある。 そんな計算したことないので、とっさには答えられなかったがとりあえず適当な金額を口にした。 「フン、おまえなんかしょっちゅうワルン…

ポトン・ギギ

父親の葬儀のために7月以来帰省していた丁稚のダルビッシュが、昨日、50日ぶり(!)にもどってきた。 もともと痩身なところをひとまわり削られてエンピツみたいになってしまった。炎天下での作業や儀礼がつづいたせいで、だいぶ黒くなっている。おまけに咳…

ワークショップから

3月11日以来の日本のようすについては、ほとんどネットでしか情報が入らない状態がつづいている。 新聞やTVの情報がかならずしも信頼できないのと同じように、ネットもまた情報源の不確かさや情報そのものの怪しさから信頼できない場合が多い。 状況にも情…

草を刈る

ウチの犬はよく吠える。 家の前をただ通り過ぎていくだけのひとにむかっても、吠えている。「犬が西向きゃ尾は東」的明快さで、ひとを見ればかならず吠えている。躾のゆきとどかない犬なのだ。実際には、ある程度ひとを選んで吠えているのだけれど、3匹もい…

揚水ポンプの音

数日前、フェイスブックに、あるインドネシア人のこんな投稿が載っていた。 「ひとはいつでも、気をつかってほしいと思っている。(そう思っている)ひとは、ほかのひとに対して気をつかっているだろうか?」 ひらたく言えば、お互いの気遣いや思いやりをう…

忘れられた時間 非観光的スポット案内

10年くらい前に訪ねた遺跡を再訪してみた。 タンパクシリンにあるグヌン・カウィが、さらに2、3世紀も経たらこうなるのではないだろうかと思わせるほど、時の浸食にさらされている遺跡だ。 ひとの気配もなく、訪れるひともない。 遺跡の脇にある湧き水をも…

非観光的スポット案内 仮面とあやつり人形の博物館 3