ワルン 非観光的スポット案内

 

 むか〜し、政府関係の偉い役人さんに「おまえはここで1日どのくらいの金をつかっているんか」と訊かれたことがある。

 そんな計算したことないので、とっさには答えられなかったがとりあえず適当な金額を口にした。


「フン、おまえなんかしょっちゅうワルンで安メシ食ってるくせに!」


 なにかいけないことでもしているような荒っぽい言われかたをしてしまった。
 その頃は、ちょうど周期的にこちらの食べものが合わなくなった時期で、レストランか自炊ですませていたからワルンで食事をする機会はほとんどなかった。
 
「安メシ」とは縁遠い食生活をしていたのだった。


 ようするに、外国人ならば観光客のように湯水のように金をつかいなさい、ワルンなんかでお茶を濁すなよナというのが、彼の言い草だったのだ。



先月のラマダンの時期のパダン料理の店内。断食明けが近くなり、すでに帰省するひとびとが出はじめ、チュルックにあるこのワルンも閑散としていた。手前の青年が店員に「帰省しないのか?」と尋ねていた。テレビでは、イスラムの教えを説く番組がながれていた。


 ここ2年ほどは、ふたたびワルンの食事でも受け入れられるようになっているので、けっこう利用している。


 中途半端な時間に外出したときなど、とりあえずかんたんに食事をすませるにはワルン以外には考えられない。ひとと待ち合わせて食事の約束をしたときでもないかぎり、レストランにひとりで入る気にはなれない。



サヌールで評判のワルンの厨房。調理台という洒落たものがあるわけではなく、床に座りながら香辛料をミックスしたサンバルをつくっていた。手前のバワン・メラ、ロンボク、ニンニクなどが山と刻まれているのは、バリ独特の薬味サンバル・マタの下ごしらえだろうか。


 辛いものはかなり苦手なのだ。
 ところが、この香辛料の組み合わせの妙というのか、なにやらいろいろとミックスされた結果うまれる味覚は旨いと思うし、好みともいえる。


 このサヌールのワルンでも、日本の味噌の味をわずかに思い出させるサンバルがある。旨味がしっかりと染みていて酒の肴にもなりそう。同行したバリ人に言わせると「どこにでもあるふつうのサンバル」というシロものなのだそうだが、ほかでは味わったことがない。



火はコンロではなく竈をつかっている。この一角だけが時代をさかのぼったような懐かしさを感じさせた。竈から立つ煙や湯気はやわらかく光を浴びていた。


 ワルンは、かつての日本の町の風景のなかに置き換えれば一膳飯屋といったところだろうか。そこに、ぽつりと外国人の姿があったとして、それは地元の人間にとってどんな光景に映るのだろうかと、ふと思ってみる。


 安メシ食いのしみったれなどというところにおさまるのか?

 まさか。