ジンバラン

 


 海岸にあるシーフードバーベキューのレストランを久しぶりに訪れた。

 10年以上も前には、親しいひとたちといっしょにウブッドでは味わえない新鮮な魚介類を食べるため、ときどきここへ来ていた。その頃は、レストランというよりは洒落た屋台と呼ぶにふさわしいような雰囲気で、夕暮れから夜へゆるやかに流れる海辺の景色を眺めながら手頃な値段で食事を楽しめたから、はるばるウブッドから足をのばしてやってくる価値をじゅうぶんに堪能できる場所だった。


 島の低地に沿って這うように伸びる光の帯、ウルワツの小高い岬をおおう光の網、海と空との境も不明な彼方から発光体となってングラ・ライ空港にむかって低空飛行してくる着陸便。


 都市の密度の高い光量とは違い、ひかえめで静かなここの夜景はバリの風景のなかで好きなもののひとつだ。



 昨夜は東京から来た友人とその姉妹や姪御さんたちと遅めの夕飯をいっしょにした。


 明日の朝が早い彼らは、食事がすむとさっそくホテルに帰る準備をはじめた。友人とともにレジで精算してもらい請求額を見て、少なくともぼくはなにかの間違いではないかと驚いた。
 友人が、日本で食べたと思えばいいよと、鷹揚なことを言う。

 そばにいた彼の妹さんは、日本よりも高いわとリアルに反応した。

 それに、ここは日本じゃないからね、とぼくも言わずもがなの憤懣をつけくわえたが、そのとき頭をよぎったのはわれわれがジンバランに到着したとき、ドライバーがためらいなくこのレストランのエントランスに車を乗り入れたことだった。ジンバランの海岸沿いに数多く並ぶバーベキューの店のどれを選ぶか問うまでもなく、あらかじめここと決めていたかのように、われわれは運ばれたのだった。


 一日かれらを観光案内して、最後の最後にこんな「落とし穴」があったかとがっかりしてしまった。
 かれらをヌサ・ドゥアのホテルに送り届け、ドライバーとふたりきりでウブッドに帰る夜道、気まずい沈黙がしばらくつづいた。


 ジンバランの夜景を見にくるには、また別の方法を考えなければならない。