あの海からの光

「月のしずく」につかった半球型のシェードは、直径25cm、高さ20cm。骨組みは竹材。デザイン原型はロンボク島のどこかの笊職人さん(かな?)。
 2002年頃のことだったが、たまたまぶらりと入った籠を売っている店の隅に直径70cmほどの半球型の大きな笊がぶら下げられているのを目にした。
 ほかの品は籐を編んだものやアタと呼ばれる水草を乾燥させて蔓にして編んだ、ロンボク島特産の定番民芸品のおみやげだ。でも、この竹笊の素っ気なさはおみやげ民芸品の部類とは泰然と一線を画す。無骨なのである。なんだろ、これは? と興味を覚え店員に頼んで下におろしてもらってしげしげと眺めてみた。
「エビをすくう笊ですよ」と店員。エビの養殖場で使われているのだそうだ。そんなものが、なぜおみやげ屋に? という当然の疑問はほうっておいてさらにじっくり観察。
 なるほど。径6mmぐらいの竹ひごをU字状に撓(たわ)めて3cmほどの間隔をとりながら並べ、半球体をつくっていく。半球の両端から順に撓めたひごの寸法は長くなっていき、高さもしだいに高くなっていく。ひごの両端は割いた竹のベルトで二重にしっかり挟まれ、このベルトが底面の円形を保っている。太さ2mmぐらいのワイヤーを、やはり2cmほどの間隔をあけてひご1本1本にがっしりとくくりつけながら、1本目のひごから最後のひごまでの位置を固定させ、ひごがつくる半球をこれまたしっかりと維持しているのだ。笊といっても目の細かいものではなく、たしかにエビがこぼれ落ちない程度の笊目ではある。握り具合の適当な棒が、開いた底面に把手として縛りつけられていた。

 エビをすくいあげると水は一気にザッとこぼれ、これだけの深さがあるから元気なエビが跳ねても笊から飛び出す心配もないだろう。
 シンプルだけど頑丈でよくできている。形もおもしろいし、素っ気ないのも気にいった。エビ好きの日本人には、目にしたことはなくても縁もゆかりも深いものだ。これは使える。買った!
 原型の構造を参考に直径25cm、45cm、60cmのフロアライトをつくって並べて見ていたら、当時よくシュノーケリングをしながら眺めていた海底珊瑚の光景がこころに浮かんだ。その思い出が、このライトを「あの海からの光」と命名したきっかけだったが、いまだかつてだれもそう呼んでくれたためしはない。スタッフは「クラクラ(カメ)」と呼んでいるし、買っていった方たちは「カマクラ」だ「スノー・ドーム」だのとのたまっていた。
 そういうものですかねえ…。

あの海からの光。直径60 cm、25 cm、 2002 年
 このフロアライトは、一度だけ公共の施設で展示されたことがある。2003年秋、水戸市立博物館でおこなわれた特別展「あかり物語」であった。展覧会のカタログがバリに届いた。ページを開けると、直径45 cm、25 cmの「あの海からの光」がちょこんと並んでいる写真が載っていた。
 そして、写真キャプションを見ると、ずばり「バリランプ」!
 う〜ん、たしかにバリでつくってバリから送ったランプには違いないけど、これじゃただの「生産地表示」だよなあ...。