もの食うぼくら バビ・グリンの巻 1

 最近では、とみに肉を食べなくなってきている。メインは野菜で、じぶんで調理するときには、軽く茹でて塩・コショウかマヨネーズを使うぐらいで十分だと思っている。そして大量の果物をとっている。まるで修行僧のようだ。修行僧と異なるのは、ぼくには戒律も信仰もないということぐらいか。
 草食動物じゃないんだから、たまには肉も食べなきゃダメ、と友人から忠告され素直にしたがっている。それで、週に1度だけ、金曜の昼食は「バビ・グリン」を食べることにしている。豚の丸焼きである。
 金曜日に豚を食べるなど、イスラム教徒の友人に叱られそうだけど、ぼくは異教徒だし、かれらに逆らってこうしているわけではない。いろんな事情が重なって、とにかく金曜日のランチはバビ・グリンと決まっているのだ。
 バビ・グリンはバリの名物料理のひとつで、バリのひとびとにとってだけでなく、ツーリストにとってもちょっとしたご馳走だ。ウブッドで有名なバビ・グリン専門のレストラン、イブ・オカは席の空く暇がないくらいにいつでも混雑している。
 この店は、昨年暮れに支店をだした。それが、ウチの近くなのでわざわざ遠いウブッドまで買いにいかずにすんでいる。最近、1万5000ルピア(150円)に値上がりしたが、それまでは1万ルピアだった。もっともレストランで客として食べた場合には、3万ルピアぐらいだったか。

金曜ランチメニューのバビ・グリン。イブ・オカ謹製。
 ある日、お手伝いさんが休みをとったのでじぶんで買いに行った。カウンターで「テイクアウトね」と頼んだが、いっこうにつくってくれようとしない。まだか、まだかと待っているうちに、「3万ルピアじゃなきゃ売らない」と言われた。すっごい突っ慳貪な物言いで驚いたが「いや、いつも1万で買ってるんだけど」とこたえると凄まじい形相でにらまれ、「3万!」と放り投げられるように言われた。怒られながらボッタクられるというのも初体験で、思わず相手のムスメの顔をじっくり見てしまった。
 あごを突き出し、ふたつの鼻穴をパカッと開き下目づかいで睨みつけているのだから、マイッタ。こと、金のやりとりになると、度を越して真剣になるんだからなあ…。
 まあまあ、そこをなんとか、といって懇願するほどのモンダイでもないので、いさぎよく(?)店をでてきた。でてくるついでに、店の前にかかっていた「OPEN」の看板をひっくり返して「CLOSED」にしておいたけど、負け犬の遠吠えにもなりゃしない。
 という事情にもかかわらず、いまだに金曜の定番メニューとしてイブ・オカのバビ・グリンが食卓にのぼっている。

 ある年の暮れ、恒例の仕事納めの饗宴をバビ・グリンで締めようということになった。スタッフからの提案だ。じゃあ、イブ・オカに注文するかと話がまとまりかけたが、支払い総額を考えたら豚を一頭買ってきてじぶんたちで料理してもそう変わらないのが分かった。ならば、この際二頭料理してぼくの友人やスタッフの家族、それにお世話になったひとびとを呼んでご馳走しよう、と一気に話は決まった。
 そのほうが、はるかに楽しくなりそうだ。ぼくも初めて見るバビ・グリンの調理法に好奇心が大いに湧いた。
(つづく)