ふたつの訂正

 11月30日付けのブログのなかで、インドネシアで毎年5月に実施される「全国共通テスト」は来年から廃止されると書いたが、続報によると、文部大臣は廃止の噂をはっきり否定し来年も継続して行うと語ったことが、12月3日付けの新聞に載っていた。
 廃止の噂が流れた背景には、2007年5月にジャカルタ地裁で、さらに同年12月ジャカルタ高裁で出された判決が、この全国共通テストの実施を人権侵害の観点から訴えていた原告の主張を認め、国側の非を指摘していたからだ。
 さらに、つい最近(12月2日)出された最高裁の決定もうえのふたつの判決を支持するものだった。
 廃止の噂が一気にひろがったゆえんだが、最高裁の判決をうけて、翌3日には文部大臣がさっそく噂を否定したといういきさつになる。
 たしかに文部大臣の説明にあるように、三つの裁判所からだされた判決では、この共通テストの実施による「人権侵害」の事実は認めたものの、実施そのものを違法とし、その廃止をうながす直接的な文言はない。

「被訴追人(大統領以下、文部大臣などの国側関係者:注)は、共通テストの犠牲となった国民に対し人権の保障と擁護、とくに教育の権利と児童の権利についての配慮を怠ってきた。
 今後、共通テストの方針を発表する以前に、インドネシア全地域において教員の質の向上、学校施設の充実、情報アクセスの整備を被訴追人に命じる。
 共通テストの実施の結果起きる学齢期のこどもたちの、精神的ストレスおよび心理的障害を克服するための、具体的な対策を講じることを被訴追人に命じる」

 とても良い判決だと思う。ただ残念なのは、第二項があいまいだから解釈しだいでは、翌日の文部大臣の発言のように、はいわかりました、今後改善していきます、しかし共通テストは来年も継続します、となるのだろう。
 教師の質の向上や学校施設の充実が、半年やそこらでできるわけがないだろ、と傍目から見ていても明らかなのに、である。
  ところで、裁判で争点となった「人権侵害」だが、精神的負担からくる鬱病やノイローゼになったこどもの例とともに、海外の大学や国内の大学から特待生としてすでに入学を認められていた生徒たちが、この共通テストに落ち進学できなかったというケースもあげられている。プレッシャーに克てなかったのだろう。裁判の資料としてだされたデータでは、2006年の共通テストの結果、約10パーセントの生徒が落第・留年している。
 3日の文部大臣の談話では、落第・留年者の再テストの実施や来年の共通テストの際には、今年落第した生徒も受験資格をもたせるという「救済策」が打ち出されているのだが…。
 まことしやかに流れていた廃止の噂におおいに胸をなでおろしていた子どもらも、政府の方針が変わらないのを知って、ふたたび眠れない夜がやってくる不安を味わっているかもしれない。
 気持ちはよくわかる。

 もうひとつの訂正は、同じ11月30日付けのブログ、12月9日付けのブログでふれた「地域別最低賃金(UMR)」の金額だ。このときのデータは、ネット上で検索したインドネシア政府発表の数字にしたがったのだが、今朝の「バリ・ポスト」では、バリ州政府発表の「地域別最低賃金」が掲載されていたので、2009年度(今年も終わるというのに、いまごろになって改定! 改定前は平均760,000ルピア)、2010年度のものを、いちおう公の情報としてここに転載しておく。

 県名          2009年度       2010 年度
バドゥン         950,000      1,110,000
デンパサール       952,000      1,100,000
ギアニャール         842,500      925,000
カラガッサム        815,606      875,000
ジュンブラナ        812,500      875,000
タバナン          777,000      854,500
クルンクン          767,000      835,800
ブレレン           765,000      830,000
バンリ           760,500      829,500

 もちろん通貨単位は「ルピア」である。現在の為替レートで換算すると、2010年度のデンパサールの最低賃金が1万円とわずかな金額になる(¥100,500)。
 あくまでも感覚的なとらえかただが、上の表の金額を「7」で割った数字が、もし日本での所得だったらこのくらいの金額かな、という気がする。
 最高額の 1,110,00 ルピアは、なんとかやっていけそうな158,751円で、最低額の829,500ルピアだと、かなりきつい118,500円といった感じだ。
 この相対化が、まあまあ実際の金銭感覚を反映しているとすると、9日のブログで書いたふたつの経済圏の話を蒸し返すようだが、1泊$400(3,920,000ルピア)のホテルに宿泊するツーリストは、一晩で56万円の消費をしているように映るわけで、ローカル経済圏の人間の意識からすれば、高嶺の花というよりもバカバカしく見えてきそうだ。そして当然、並外れて豊かに見えるだろう。
 もちろん、ホテルの宿泊料がどうのこうのと言っているのではなく、あくまでも同じ地域にあるふたつの経済圏の格差を話題にしただけである。