謎の「ド」
指がくっついてしまった…。
今朝、工房で瞬間接着剤をつかっているとき、中指と薬指まで接着してしまった。しょっちゅうやっているのであまり気にしないけど、きょうはかなりベットリとくっついてしまい、無理やりはがすと皮膚まで破れそうなので放っておいた。
この瞬間接着剤は、近所の建材店でいつでも手に入るものなのだが、だいたい、まともに商品名を確かめたことがない。
指がくっついたまま、きょうはしげしげとあらためてケースを見た。
パッケージが日本語で書かれているのはもちろん知っていたけど、日本製だとは信じていなかった。50円で日本製の瞬間接着剤が手に入るはずもない。
ケースには「シアのクリド 瞬間接着剤」とある。
「シアのクリド」?
印刷されている説明もぜんぶ日本語。しかも、読んでいるうちにブハッと吹き出してしまうような、よくありがちなおかしな日本語ではない。
たとえば、「毒性がありません」と見出しがあり、「医療用(歯科技工用)として使用されています。」と念をおすところなど、まったく自然だ。
「強力」という大きな文字の下には「ほとんどの材質を強力に接着します」とちゃんと補足説明だってある。(…ぼくの指はくっついたままだ)。
しかし、いかに巧みな日本語が印刷されているからといって鵜呑みにはできない。
肝心の商品名である「シアのクリド」がぜんぜんピンとこないのである。
指がくっついてしまったのを機に、きょうはこの商品について徹底究明してみようとケースに載っているアドレスにアクセスした。
大文字ではじまっている!
台湾ではないか!
「同聲企業股×有限公司」が会社名(×は「にんべんに分」)で、「接著劑専家」と業種がかかげられている。
「にんべんが付いている分」は、やはり「分かれる」と関係があるのかな、「股が分かれる」とはいったいどういう意味だろ、と調べもせずにいろいろ考えてみたが、やはり分からない。
しかし、サイトの雰囲気からすれば、股が分かれるとか分かれないとかとは関係なく、かなり確かな企業のようだ。さっそく「産品介紹」をクリックして「シアのクリド」が「介紹」されているかどうかをチェック。
「瞬間接著劑工業系列」にあたりをつけ、再度クリック!
これは?
EVO BOND とある。ロゴもぜんぜん違う。容器も、カラーも。
商品コードだって「シアのクリド」だと、見えないくらい小さい文字で「W-20」とラベルにあるが、EVO BOND はすべて E+3桁ではないか。
やはり…。
おや、後ろの箱 !?
CYANOACRYLATE ADHESIVE
あたまの5文字! CYANO … なんと、シアノと読めるではないか! 間違いない、「シアの」はここから生まれたはずだ。それに「ノ」は日本語ではたいがい助詞の「の」なのだから、迷うことなく「シアの」と変換されてなにが悪い。
おお! よくよく見れば「クリ」もあった「クリ」も! まん中で、ほかの文字たちにまぎれこむように「CRY」がある。「クリ」として、さりげなくこんなところに身を隠すとは…。
なるほど。
予想もしなかった早さで、「シアのクリ」までは解読できてしまった。
だが、「ド」はどこ? 商品名「クリド」の最後に位置するはずの「ド」は、いったいどこに潜んでいるのだろうか。
「シアのクリ」ではどうにもしまらない。
う〜ん、「ド」を解くカギは──いまだ謎のままなのである。