美術館からスタバへ

 

 久しぶりにプリ・ルキサン美術館を訪ね、Bali Deep 展を観る。開館まもない時間で誰もいないからゆっくりと観てまわることができた。

 それにしても暗い館内だ。
 



左上 dewasugi(部分)、右上 kyoko kakehashi、下 koji ikuta


 インドネシアのコンテンポラリーアートは、すでに東南アジアの美術市場では主要な売れ筋傾向を見せている。サザビーのオークションでも数万ドルにのぼる作家たちもザラになってきている。

 それが時の勢いなのだ。


 そういうご時世とは無関係に、ウブッドのような田舎の片隅でひっそりと制作をつづけている絵描きさんたちもいる。ほとんどのひとは正規の美術教育を受けていない。
 父や叔父から手ほどきを受ける、近隣のすでに絵描きとして名をなしているひとから特殊な技法を教えてもらう、そんなふうに実地で学んできたひとばかりだ。

 伝統技法にすこしだけあたらしい理念を注ぎ込み、全体としては「古くさい」印象の絵を描く。若いひとが、そんなふうに家族や共同体からひとつの技術を受け継ぐ習慣がいまだに生きているようすに、ぼくはいつも敬意をもって眺めている。


 Bali Deep 展もそういうひとたちにこそ、もっと注目してほしいと感じた。


                     *


 

 美術館を出て、歩いて2、3分のところにスタバがある。
 こんなところにスタバか? と以前から気になっていたのできょうはいい機会だと入ってみた。

 オープンしてからすでに半年ぐらいになるような気がするが、レジのスタッフに尋ねると、

「ひと月半です」

 いや、そんなことはない、とは思ったが素直に聞いておいた。


 それにしても、である!

 キャラメルマキアートが4万1500ルピアでベーグルが1万5000ルピア! この円高渦中のレートで計算しても520円にもなる。

 長年バリにいる身としてはかつての恒常的レート(1対80台)があたまにこびりついているから、600円〜700円ぐらいの感覚だ。

「高いよ〜」

 とレジで意味もなくごねてみる。

「高いですよね〜」

 とボーイくん。 

「日本より高い!」

 それがどうした、という顔でボーイは黙りこくってしまった。


 それとも、日本より高い価格のものを売ってるのに、じぶんたちのサラリーは...なんて暗い気持にさせてしまったのだろうか?



隣のテーブルの話が筒抜けの日本の店舗よりは、はるかに落ちついて雰囲気もある。いっちょ前に No Smoking の札が各テーブルの上にあった。