2010-01-01から1年間の記事一覧

昨日のはなし

九月に入ってから再び雨の日が多い。 今年はけっきょく、乾季特有のすがすがしい一日に恵まれる機会は、例年とは比べものにならないほど少なかった。 昨日は午後から、バリ人画家ブディアナさんのスタジオを訪問する九大の学生たちに合流することになってい…

ウィークエンド・レポート

8月30日(月) スタッフのひとりアジの父親が先週から慢性的な腸閉塞で苦しみだし、今日、ギアニャールの公立病院に入院。検査しだいではそのまま手術もありうるので、父親を病院まで介添えするという理由でかれは仕事を休んだ。 肝炎や腸チフスとともによ…

ウィークエンド・レポート 

23日(月) 2か月近くうやむやにしていた照明具を、ウブッドの某ホテルに配達。 ロビーに飾るものだが、6年前につくったもののリメイク。 5年くらい前、このホテルに泊まった知人がたまたま写真に撮っておいてくれた。 ところがサイズが5cm大きすぎると、…

謎の「ド」

指がくっついてしまった…。 レッドジンジャーとツーショット。 今朝、工房で瞬間接着剤をつかっているとき、中指と薬指まで接着してしまった。しょっちゅうやっているのであまり気にしないけど、きょうはかなりベットリとくっついてしまい、無理やりはがすと…

見えない世界 2 バリで読む『遠野物語』6

電話の相手はさっきドゥクンのもとにやったスタッフだった。すこし興奮した早口で話す。「プンフニのせいだそうです」 プンフニ / punghuni とは、一般名詞では「住民」を表すのだが、いま起きているような文脈のなかでは「精霊」を意味している。 ある土地…

見えない世界 1 バリで読む『遠野物語』5

母方の親類が岩手県三陸海岸の周辺に散らばるように住んでいたせいで、こどもの頃にはすでに『遠野物語』に登場するいくつかの話に類するものは、伯母たちから聞かされて知っていた。 夏休みのあいだ、宮古や山田それに内陸部ではあるが盛岡など、転々として…

鎮魂の技術 バリで読む『遠野物語』4

『遠野物語』は文学である、と40年ぶりに読み返してはじめて気づいた。 もちろん、この本が日本の民俗学の誕生を印す重要な起点になったものであるとしても、本質的には文学である。 簡潔で入念なことばの選択、文体のうつくしさは読んでいて心地よい。佐々…

思い残し切符 2 バリで読む「遠野物語』 3

『遠野物語』第二三話は、こういう話だ。 「同じ人の二七日の逮夜(たいや)に、知音の者集まりて、夜更くるまで念仏を唱え立ち帰らんとする時、門口の石に腰掛けてあちらを向ける老女あり。そのうしろ付(つき)正しく亡くなりし人の通りなりき。これは数多…

思い残し切符 1 バリで読む「遠野物語』 2

この4月に亡くなった、作家・戯曲家の井上ひさしさんの数多くの作品のひとつに『イーハトーボの劇列車』がある。 井上作品のひとつのジャンルをかたちづくる「伝記劇」のいちばん最初の戯曲で、宮沢賢治が主人公。 「イーハトーボ / イーハトーヴ etc.」は…

風水師  バリで読む『遠野物語』 1

いま借りているこの土地に、まず工房を建てたのは2003年の暮れ、翌年の2月末にはささやかな家屋を建て終わっていた。 家が建つまでのほぼ2か月は、プリアタンにある借家からこのマスの工房まで、飼い犬のチェリーをシートにまたがらせ10分くらいの道のりを…

温かい気持 5 (続き) 閉じていく思い出のそのなかに 13

オリヴァー・サックスのいう、知的障害をもったひとびとのこころの「質」を想像するには、ぼくらの経験からは子どもの頃のこころのありかたを想起すればいいだろう。内田百間のいう、子供心のさらに奥にあるものについて思いを馳せてみればいい。 ことば以前…

温かい気持 5 閉じていく思い出のそのなかに 12

「温かい気持」は、『妻を帽子とまちがえた男』(オリヴァー・サックス著)の第四部「純真」のプロローグ冒頭にみつけたことばである。 オリヴァー・サックスは脳神経科医で、’91年に日本でも公開された映画『レナードの朝』のもとになった同名の本 (‘73刊)…

温かい気持 4 閉じていく思い出のそのなかに 11

内田百間の涙──。 とにかくよく泣くひとだ。ノラがひと晩帰らなかったその朝から、すでに泣きだしている。ノラの失踪3日目には、奥さんが配慮をきかせる。 「毎日私が泣いて淋しがるので、家内がだれかに代る代る来て貰つて一緒に御飯を食べる事にしてはど…

歩く

仕事をしない日を迎えた朝の目覚めは穏やかだ。 穏やかな気分だからきょうは散歩をしようと決めた。 雨が降っていたので、やんでからそうしようと決めた。 だから午後も遅くなってから出かけた。 [ ギャラリーに立ち寄る。 ] 歩道にポッカリと穴があいていた…

明日は休む!

「日曜返上」を書いたのが6月23日で、曜日に関係なく毎日を過ごすとどうなるだろう? じぶんのからだにどんな変化が起きるだろう? などと口走ったが、いやはや疲れた〜! たしかに連続した曜日感覚はほとんどなくなる。それでも、ひととの約束などがあるか…

温かい気持 3 閉じていく思い出のそのなかに 10

ノラが一夜明けても姿を現さない、それに気づくと同時に内田百鬼園は朝の布団の中で滂沱の涙を流した。 そして、その突然の予期せぬ涙に、「その時ノラは死んだのだらう。遠隔交感(テレパシイ)の現象を信ずるも信じないもない。ノラが私の枕辺にお別れに来…

温かい気持 2  閉じていく思い出のそのなかに 9

百鬼園先生の『ノラや』を最初に読んだのは、5年くらい前だった。 今回再読したのは、といっても数か月前だが、この3月に飼い犬のチェリーを喪ったあと、かなしみの感情はおさまらず、ひと月を経てふた月を過ぎても「喪失感」はいつでもぼくのこころを占め…

温かい気持 1  閉じていく思い出のそのなかに 8

黒澤明監督の遺作となった『まあだだよ』(‘93年)は、随筆家・内田百間(門がまえに月)をモデルとして、師弟の絆を描いた「アットホーム」な映画だった。 だいぶ前に観た映画なので、細部にわたって記憶しているわけではないが、全体の印象としては起伏の…

豪雨対策

今年6月から「ラ・ニーニャ』が異常な発達を見せ、インドネシア周辺に大量の雨を降らせているらしい。 その影響で、本来はとっくに乾季に入っているはずのバリは、いまだに雨季と変わらない、時には雨季を上まわる豪雨に見舞われる日がある。 この天候がほ…

お宅はだいじょうぶ?

このあいだから気になっているのは、インドネシア各地でプロパンガスの爆発事故が多発していることだ。 今年に入ってから事故件数80、死者16名、負傷者74名──この数字は、LPGを利用している国々の事故発生数にくらべて多いのか少ないのかもよくわからない。 …

アートな空間 4 途半ば

24日から始めていた天井への紙貼り作業を、今日ようやく終えた。 いちばん厄介な仕事が終わりホッとすると同時に、明日から3日間現場を離れるので少しだけ気がぬけてもいる。 1平米の紙を貼るのに最低3人は必要だ。4人で交替しながら作業をすすめるつも…

アートな空間 3 渋滞解決法

まだ7月24日──。 この日の朝は「タコ渋滞」にまきこまれたが、バリにはほかにもいろんなタイプの渋滞がある。 もっとも典型的なのは「ウパチャラ渋滞」だ。儀礼の行列が片側車線を「占拠」してユルユルと足を運んでいく。車やバイクはひとびとの行列に行く…

アートな空間 2 渋滞 

7月24日──。 ようやく現場の壁塗装のやり直しが終わったというので、今朝は8時に3人のスタッフとともに工房を出発、スミニャックに向かった。 車をチャーターしているドライバーが、渋滞を避けスムースに現場に向かえる道を選んで走ったのだが、スミニャ…

「その死に人と犬との差があろうか」 閉じていく思い出のそのなかに 7 

『ハラスのいた日々』(中野孝次著)が出版されたのは1987年、昭和も終わりに近い年だった。 中野孝次(1925−2004)は作家でドイツ文学者、タイトルだけでも覚えているひとは多いのではないかと思うが、バブルがはじけた頃の成金的日本社会と日本人に、かつ…

アートな空間 1 はじめの一歩

4月からつくりつづけていた紙の「本番」がいよいよ今週から始まる。 スミニャックの某レストランの敷地内のアーケードにあるショップの内装である。 このショップの内装が完成すれば──イメージどおりに完成したら、という意味だが、このショップは間違いな…

自殺未遂...? 閉じていく思い出のそのなかに 6 

首を絞める あのとき、苦しむチェリーを目の前にして、みずからの手で最愛の犬の首を絞めるという、いまにして思えば無謀な行為に及んだのは、『アフリカの日々』の著者イサク・ディネセンが、彼女の経営していた農場が破綻をきたしいよいよ本国デンマークに…

しばしお休み、のお知らせ

「ああ、やらなきゃ」と思いながら手つかずのまま放ったらかしにしていることが身の周りにゴロゴロころがっている。 最近は「メールの返事を書く」というのが新たな“プレッシャー”になっているのだが、じつはブログもそう。 ブログを書くことがではなく、中…

バリに生まれた「不幸」最終回 Beng Beng のゆくえ

──日本人は、犬と話ができるの !? ナルセのところで働いているニョマンがそう言ってたヨ、と知り合いのバリ人が教えてくれた。 12年前のことで、当時、バリではじめて犬を飼った頃だ。 この犬、プートラのことは以前にも書いたが、なかなかガンコなオス犬で…

バリに生まれた「不幸」6 朔太郎の犬

萩原朔太郎は詩のなかで、たびたびじぶんを「犬」に投影している。 この見もしらぬ犬が私のあとをついてくる、 みすぼらしい、後足でびつこをひいてゐる不具(かたわ) の犬のかげだ。………(略)とほく、ながく、かなしげにおびえながら、 さびしい空の月に向か…

バリに生まれた「不幸」5 モンゴルでも...

犬の「糞食」についてちょっと調べていて、ああ、そういえばそうだったと思い出したのが、モンゴルの遊牧者たちがかれらの飼っている犬に、人糞を餌として与える話だ。 あの、移動式住居のゲルに住むひとびとの排泄したものを食べさせることによって、ゲル成…